このレビューはネタバレを含みます。
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表題にある悟浄(「西遊記」の沙悟浄)はもちろん、例えば司馬遷や虞美人、三国志の趙雲など中国古典に生きた人物たちが各一編ごと描かれた5編の作品が収録された短編集です。それぞれが自分の境遇や内面と向き合い、生き方を模索する姿やその生き様が鮮やかに、力強く描かれています。私は教育実習に行く前、不安でいっぱいの時に表題作の「悟浄出立」を読み、先の見えない不安に向かう勇気をもらいました。また猪八戒の戦への考えが、すごくハッとさせられる深いもので印象に残っています。
各篇のタイトルが「悟浄出立」のように、主人公の名前を含めた四字熟語のようになっているのも、いいなと思います。
表題作の「悟浄出立」は、作者の万城目学が学生時代の現代文のテストで出会った中島敦の「悟浄歎異」をもとに、中島の絶筆により「悟浄出世」「悟浄歎異」の連作2編で止まっていた「わが西遊記」の続きを執筆したものです。それを皮切りにこの本に収録されている他の作品も執筆されました。
私は中島の「悟浄出世」「悟浄歎異」、そして万城目の「悟浄出立」では、「悟浄出世」を一番初めに読みました。生き方・進路模索中の予備校生時代のことです。この作品も非常に面白く、ぜひ読んでいただきたいです。
これら中島の「わが西遊記」の2編と、「悟浄出立」に収録された5編は、それぞれの主人公が自分だけを見つめるのではなく、その主人公の生き方に大きく影響を及ぼす”誰か”がいて、主人公たちはその”誰か”を必死にまなざすこと、向き合うことで自分の生き方を模索し、その生きざまを万城目は描きます。
他者から必死で学び、考える主人公たちに、読書によって、ぜひ出会ってほしいです。
また、表題作のほかに印象に残っている話は、「法家孤憤」です。二人の「けいか」という名の男の物語です。偶然、二人の人生は交わり、また離れ、その出会いからそれぞれの人生の道が定まっていき、分かれていきます。それぞれの信念や生き方が鮮やかに描かれており、好きな作品です。
それぞれの話の元ネタを知らなくても、万城目学による元ネタ解説もあるので安心です。
素敵な作品です。自分の生き方に迷う時、力がもらえるかもしれません。ぜひ、お読みください。
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